リンパ浮腫
リンパ浮腫とは
リンパ浮腫とは、リンパの流れが悪くなることにより腕や脚に浮腫(むくみ)が生じる病気で、多くは片側性のむくみ、重だるい、張り感、皮膚が乾燥し固くなるなどの症状がでてきます。
リンパ浮腫には、生まれつきリンパの形成が悪いためにむくみが生じる「原発性リンパ浮腫」と、乳がんや子宮がんの治療後に末梢から中枢へ流れるリンパの流れが悪くなって生じる「続発性リンパ浮腫」があります。
当院ではリンパ浮腫療法士(LT)が2名在籍しており、複合的治療を行っています。また、リンパ浮腫の日帰り手術も行っておりますので気になる症状があればお気軽にご相談ください。
リンパ浮腫の原因・症状
リンパ浮腫の原因
原発性リンパ浮腫 | 続発性リンパ浮腫 |
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生まれつきリンパ管がない。もしくは少ない | 乳がん、子宮がん、卵巣がん、前立腺がん、膀胱がん、大腸がん、皮膚がん等の手術によってリンパ管がせき止められている。またはリンパ管が変性して流れが悪くなる |
リンパ浮腫の発症原因は、生まれつきリンパ管に何らかの問題がある原発性と、乳がんや子宮がんなどの悪性腫瘍の治療でリンパ節を切除したり放射線治療で損傷したりなどの影響により生じる続発性があります。
リンパ浮腫の9割以上は続発性です。術後すぐに発生することもあれば十年以上経過してから発症することもあり、個人差があります。
リンパ浮腫の症状
主な症状としては片側の腕や脚がむくんで太くなる、重だるさがある、張り感がある、皮膚が乾燥し固くなるなどがあります。
合併症には、発熱を伴う炎症を起こす蜂窩織炎(ほうかしきえん)やリンパ浮腫の症状が進行(悪化)すると皮膚が象のように固く厚くなる象皮症(ぞうひしょう)、リンパ液が皮膚から漏れ出すリンパ漏などがあり、最悪の場合命に関わる恐れもありますので、早期の診察・治療を適切に行い重症化を防ぐことが大切です。
当院のリンパ浮腫治療
当院ではリンパ浮腫療法士(LT)による複合的治療や医師の手術によって治療を行っています。
リンパ浮腫は、手術や複合的治療を行っても片側のように細く元通りになることが難しい病気ですので、様々な治療を組み合わせて、今よりも悪くしない、少しでも細くする、柔かくする、蜂窩織炎の頻度を減らすなどが治療の目標となります。
まずは診察でこれまでの経過やむくみの状態を確認させていただき、治療方法を計画していきます。
乳がんや子宮がんなど手術をされた際は主治医の紹介状があるとスムーズに治療へ移ることが出来ます。
複合的治療
当院では経験を積んだリンパ浮腫療法士(LT)が、リンパ浮腫治療の基本である複合的治療を行います。複合的治療とは、圧迫療法、リンパドレナージ、圧迫下での運動、スキンケア、セルフケア指導を組み合わせた治療です。
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圧迫療法
圧迫療法はリンパ浮腫治療で不可欠な治療です。
圧迫することによって重力による患肢末梢への組織間液の移動を防ぎ、毛細血管からの漏れ出しを減少させる、静脈の流れを促進させる、リンパ液から皮膚・皮下組織への逆流を減少させるなどの効果があります。
圧迫装具を正しく用いることで患肢が細く柔らかくなることが多く、圧迫装具無しではリンパ浮腫治療はできないと言っても過言ではありません。圧迫装具には弾性着衣を使用します。
弾性着衣の種類
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弾性ストッキング(下肢)
ハイソックスタイプ、ストッキングタイプ、ベルト付き片足ストッキング、パンストタイプ等
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弾性スリーブ、グローブ(上肢)
スリーブ、ミトン付きスリーブ、ミトン、グローブ等
このように弾性着衣には様々な種類がありますので、浮腫の程度やライフスタイルに合わせて患者様に合った弾性着衣をご提案させていただきます。
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ドレナージ
ドレナージは、患肢に溜まっている組織間液やリンパ液を柔らかい圧で皮膚を伸展させることによって適切な方向に誘導・排液する方法で、施術後は浮腫が軽減され、皮膚の柔らかさが出ます。
ドレナージの施術時間内に、患者様の生活スタイルに合わせた生活指導や運動方法、セルフドレナージの方法を指導いたします。
1度ですべてをお伝えすることが難しく、セルフケアを習慣づけていただくためにもまずは週に1度の来院を3回程続けていただき、その後は状態悪化がないか継続的にフォローさせていただくために、月に1回~3ヶ月に1回の頻度で来院していただくことをおすすめしています。
施術の流れ
- 患肢の計測
- 生活状況の聞き取り、日常生活指導、セルフドレナージ指導等
- 患肢のドレナージ、圧迫下での運動等
患肢・身体を直接触らせていただく為、薄手の服装や患肢が見えるキャミソール・短パンなどの服装でお願いいたします。
料金
メニュー 料金 上肢 30分 ¥5,500 下肢 60分 ¥7,700 ※ドレナージは自費診療となり、保険診療日とは別日になります(同日にはできません)。
※初回は初診料¥1,100がかかります。
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圧迫下での運動
リンパ液は筋肉の弛緩・収縮によって移動しやすくなりますが、リンパ浮腫の肢ではリンパ液のうっ滞により弁が閉じずリンパ液が逆流してしまっている状態にあります。
圧迫下での運動は、弾性着衣を用いてリンパ管を圧迫し、リンパ管の弁機能改善している状態で運動をして筋肉を弛緩・収縮することでより多くのリンパ液を排液します。
運動方法の例
- 上肢:
- 肩回し、手首の曲げ伸ばし、グーパー運動、腕を伸ばしタオルを胸の前で持って上げ下げする運動
- 下肢:
- 踵上げ下げ、太もも上げ下げ、屈伸
各20回ずつ程度
毎日の生活の中で、テレビを見ながらや家事をしながらなど少しずつでいいので弾性着衣を装着した運動を習慣づけましょう。
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スキンケア
リンパ浮腫がある肢では乾燥や硬化といった症状があることが多く、肌のバリア機能が低下することによって傷付きやすい状態になっています。
また、リンパ液は細菌などを処理する働きがありますが、リンパ浮腫によってリンパ液が貯留しているとその機能が低下してしまい、感染に弱くなってしまいます。
感染に弱くなると、蜂窩織炎を引き起こしてしまい、患肢の浮腫が悪化することになってしまうので、肌を清潔に保ち保湿をすることで肌のバリア機能を高めて感染予防を行います。
保湿剤は毎日使用するため、安価で大容量の市販のものでかまいませんが、低刺激のものを選びましょう。何を使えばいいかわからない場合はご提案させていただきますので、お気軽にご相談ください。
検査
リンパシンチグラフィー
リンパ浮腫の症状を全体的に把握するための検査です。
検査では、数か所痛みのある注射をした後に、2回の撮影を行います。数時間かかってしまう検査です。比較的大きな総合病院でしかできない検査で、当院では連携している姫路医療センターで検査を受けてもらいます。(費用は3割負担の方で2万円程です。)
外科的治療
外科的治療は、LVA(リンパ管細静脈吻合術)、リンパ節移植、リンパ移行術、脂肪吸引等がありますが、当院ではLVA(リンパ管細静脈吻合術)を行っています。侵襲度が高いリンパ節移植などは連携施設へ紹介させていただきます。
LVA(リンパ管細静脈吻合術)
LVA(リンパ管細静脈吻合術)は、リンパ管と静脈を吻合することにより、うっ滞したリンパ液を静脈へと流し、リンパ浮腫を改善させる手術です。
手術は局所麻酔下に、2~3cm程度の小さい切開から行うので身体への負担は少ないです。多くは日帰りで行っていますが、ご希望があれば他施設にて1泊入院も可能ですのでご相談ください。
患肢のICG検査・超音波検査を行い、手術用顕微鏡を用いて手術を行います。
手術の流れ
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- ICG検査
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ICG(ジアグノグリーンという名の薬剤)を注入してPDEという器械で見ると、リンパ管が蛍光されるのが分かります。
注入自体がとても痛いので、注入前に、注射のための麻酔の注射をします。この検査で、リンパ管の機能を確認し、またリンパ管の位置も確認します。リンパ管機能が落ちると、線状に見えるリンパ管が減り、もやっとした所見に変わっていきます。
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- エコー検査
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高周波エコーを使用してリンパ管、静脈の位置や形態を詳細に確認します。
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- 手術部位の決定、局所麻酔
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FLOW1~2の結果からリンパ管、静脈の吻合位置を決定し、手術のための皮膚切開線をデザインした後、局所麻酔します。
※ここまでの検査、手術準備が30分から1時間程度です。通常ここでトイレ休憩を入れます。
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- 手術
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皮膚切開は、上肢は2cm程度、下肢は2.5-3.0cm程度です。
皮膚切開→静脈およびリンパ管の同定→吻合(端々吻合、側端吻合)→洗浄→閉創の順です。所要時間は1時間から1.5時間程度です。
実際の手術映像が流れます。血や傷跡などで気分を悪くされる方、苦手な方は閲覧にご注意ください。
モノクロ動画
カラー動画
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- 多重包帯
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術後、上肢なら指先から上腕基部まで、下肢なら足先から大腿基部まで包帯をしてご帰宅していただきます。
この多重包帯法はリンパ浮腫療法士が行います。
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- アフターフォロー
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手術翌日も来院していただき、包帯を外して創部の確認をします。その後の通院は、1週間後に抜糸を行い、1ヶ月後、3ヶ月後といった頻度でアフターフォローを行っていきます。
症例
70代男性 左乳癌術後続発性リンパ浮腫
70代女性 子宮癌術後続発性リンパ浮腫
副作用・リスク | 出血や感染、傷跡、創離開、リンパ漏など |
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日常生活の注意点
リンパ浮腫の悪化を防ぐために下記の項目に注意して過ごしましょう。
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体重コントロール
肥満体型の方は脂肪がリンパ管を圧迫しリンパの流れが悪くなってしまうことで浮腫が悪化してしまいます。脂肪がなくなることで浮腫は軽減しますので、BMI22前後でコントロールしましょう。
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皮膚の状態を観察する
皮膚の乾燥やバリア機能の低下による感染(蜂窩織炎)は悪化してしまうと治療にも時間がかかり浮腫も悪化してしまいます。毎日赤みやかゆみ、痛み、発疹、血管のみえにくさなどの変化を観察する習慣をつけて早期発見、早期治療をすることが大切です。
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身体に食い込みにくい服装をする
衣服が食い込むことで圧力が異常にかかり、食い込んだところより末梢の浮腫が悪化する原因になります。
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長時間の立位・座位は避ける(下肢の場合)
長時間同じ体勢でいるとリンパの流れが滞りやすいため、時々足首の運動をし、挙げられる場合は挙げておくなどの工夫をしましょう。
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患肢がキズつくことや虫刺されを避ける
ガーデニングや畑仕事など土いじりをする際は必ず手袋をつけましょう。些細なキズが蜂窩織炎の原因になることがあります。
リンパ浮腫セルフチェック
- 重だるさがある
- 浮腫の初期症状として腕や脚に重だるさや動かしづらさを感じることがあります。
- 反対側と比べ静脈の見え方の違いを確認する
- 浮腫により皮膚が厚くなるとそれまで透けて見えていた静脈が見えにくくなります。
- 皮膚をつまんでみる
- 浮腫により皮膚が厚くなることで皮膚が張り、つまみにくく、シワがよりにくくなります。
- 皮膚の上から指で押す
- 浮腫があると、皮膚の上から指で軽く押すだけで跡が残ったままになります。
- 衣服やアクセサリーなどの跡を確認
- 下着や袖口、靴下、指輪や腕時計などがきつく感じたり跡がつくようになったりするとむくみ始めの兆候である可能性があります。
- 腕や脚の太さを測っておく
- 定期的に両方の腕もしくは脚を測っておくことで、浮腫で太くなってきた事や左右の太さの違いを早期発見することができます。なるべく同じ時間、同じ場所を測ることが大切です。
リンパ浮腫が起こりやすい部位
リンパ浮腫は、太ももの内側や付け根、足の甲、二の腕の内側や手の甲など、治療によってリンパ節を切除した側のリンパ節に近いところからリンパ管に沿って起こりやすいです。
放射線治療をした場合は治療部位の付近から起こりやすいです。
原発性の場合は心臓から遠く重力のかかる足先に起こることが多いです。
初期症状に気づいたら
すぐにご相談ください
よくある質問
- リンパ浮腫は治りますか?
- リンパ浮腫の治療は保険が使えますか?
- 弾性着衣はいつ着ければいいですか?
- スポーツはできますか?
- 飛行機には乗ってもいいですか?